夏の自由研究

それは七月の師匠の月例独演会の帰り。

タクシーの中の師匠の一言から始まった。

 

「そこのバス停で毎朝決まった時間に、

ものすごいセクシーな人が現れるよ」

 

師匠はよく散歩をしていて、

たまに通ると必ず見かけていたそうだ。

車内には笑二兄さんとわたし。

 

実は師匠からわたしが聞いたのは二度目。

 

一度目は地方公演の帰りに

同じくタクシー車内で聞いた。

家から近所なのにタイミングが合わず、

バス停へ行くことも出来なかった。

 

師匠から二度も聞いて、

一度目も行けなかったことを反省した。

そしてそれ以上に、

想像以上にセクシーなんじゃないかとも思った。

 

次の日の朝、天気は雨。

朝から仕事があり、

電車に乗る前に寄ろうと少し早めに家を出た。

蒸し暑く、雨と汗でタオルはもうびしょ濡れ。

 

バス停につくといた。

…笑二兄さんが。

 

正直驚いた。

家からは徒歩五分もかからないバス停。

笑二兄さんの家から徒歩だと三十分はかかるはず。

それにも関わらず先にいた。

兄さんも一人の男性、セクシー好きだった。

 

二人で待っても結局来なかった。

 

その日の晩、笑二兄さんから

明日も見に行こうと連絡が入った。

ワクワクした。

小学生のときの夏休みの前日のような。

興奮して夜もあまり眠れず。

 

次の日。

朝早くジムにシャワーを浴びに行く。

流れてきたBGMが

QueenのI Was Born To Love You。

フレディ・マーキュリーにも

頑張れよと言われているような心持ちだった。

時間になって兄さんと待ち合わせ。

 

…セクシーは来なかった。

 

兄さんから帰り際に

土日は来れないと言われた。

兄さんの分まで来ようと思った。

 

そのまた次の日。

日課のお参りを済ませて一人で待機。

 

来た。笑ってしまった。

 

一目で分かるほどのセクシー。

人を寄せ付けないオーラ。

チラリと見えるドラゴンタトゥー。

ゴリゴリのヘビ柄のカバン。

場違いな手持ち扇風機。

 

 

けど、心のどこかで喜べない自分がいた。

兄さんとこの感動を共有したかった。

 

すぐに報告した。

兄さんは見つけるまで行くよと言っていた。

 

そして週明けの今日。

少し遅れてバス停近くに到着。

 

笑二兄さんが待っていた。

あまりにも真剣そうだったので、

帰りに挨拶しようと離れたところで待機。

 

結局セクシーは来ず。

挨拶しようとしたら兄さんを見失った。

しまったと思ったら既に道路の反対側で

自転車に乗って帰ってしまった。

 

その背中にはどこか哀愁が漂っていた。

 

梅雨も明けずに

夏の自由研究は終わりにしようと思う。

 

 

笑えもん